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広告代理店:コロナに打ち克つマネジメント
コロナに打ち克つマネジメント
コロナ禍では、日本からの渡航だけでなく、中国国内の移動も大幅に制限された。
特に中国国内に複数の法人やオフィスを持つ日系企業は、マネジメントにおいて大変な苦労をされたのではないだろうか。
大手広告代理店ADKホールディングスの中国法人であるADK集団中国は、上海、北京、広州、青島に加えて武漢にもオフィス(分公司)を持っている。
都市封鎖のため出張中だった中国人武漢分公司の総経理は武漢に帰れない、武漢現地は外出禁止となり社員は出勤さえできない。街には人が全くおらず、経済活動が止まっているかのように見えていた武漢であった。
そんな環境下でも、武漢オフィスの社員達は、自ら考え、ミーティングでアイデアを出し合い、クライアントのコンペを勝ち抜き、高い評価を受ける仕事をやり遂げた。
2018年からADK中国に着任した西塚董事長に、そのような社員達を育てるまでの道のりについてお話を伺った。
(聞き手は、上海埃和希企业管理咨询有限公司の河野)
【信頼関係を築く】
-中国へ着任時、最初に取り組んだことを教えて下さい-
まず、全社員と一対一で面談をしました。当時は中国全体で100名ぐらいだったと思いますが、時に通訳を交えながらも全員と面談しました。
面談では、一方的に聞きたいことを訊く「ヒアリング」ではなく、信頼関係を作る「対話」になるよう気をつけました。
内容は、仕事への考え方、上司との関係、ADK中国で働いている理由や期待すること、将来の夢などに及びました。
私からの思いも伝えると同時に、聞きたいと思ったことは掘り下げて訊きました。
掘り下げて訊くほどに、ADK中国の全社員は、誠実で能力があり、広告の仕事が好きで、ADK中国にも愛着がある、信頼できる社員達なのだと確信しました。
これにより、まず最初に私の中に社員への理解が培われたんです。彼らにとっても、私を信用するきっかけになったと思います。
私は、社員との信頼関係を重視しています。そもそも信頼関係が無いと、正しい情報が私のところまで伝わってきません。正しい情報に基づかない意思決定は、会社を誤った方に導いてしまいます。
また、信頼関係が無いと、何かを指示しても適切に実行されません。社員たちは、実行したふりをして、適当な報告をするようになるものです。
この一対一の面談が相互理解を深め、お互いを信用し、信頼関係を築くプロセスの最初の一歩になったと思います。
同時に、クライアントなど関係先にも直接会いに行きました。
上海以外にも、北京や、武漢などにも行き、クライアントのADK中国への率直な評価、期待することなどを直接見て、聞いて、確認しました。
初期段階で各オフィスの社員やクライアントと直接話をした時に得た情報は、非常に価値がありました。都市ごと、業界ごとに多く違いを肌で感じることができたんです。
この感覚が、その後のあらゆる意思決定の基盤になっています。
【事実に向き合う】
-日本本社との判断が異なることもありましたか-
各都市で直接多くの社員やクライアントと会っていると、事前に日本本社から聞いていた情報と、現地の状況に違うことがあると感じるようになりました。
特に、ある都市のオフィスに対して、日本本社がネガティブな評価をしていたことがありました。しかし現地で直接確認をすると、全く話が違いました。社員だけでなく、クライアントや関係先など誰に確認をしても、全くネガティブなことなど無かった。むしろ、非常に良く頑張っていて評価も高く、今後の期待も大きいとのことでした。
そこで日本本社には、私が把握した情報に基づき、積極的で前向きな事業展開をする様に方針転換を説得しました。
その後、そのオフィスは、優れた業績を上げ、当社を代表する様なアウトプットを生み出し続けています。心から嬉しく思っています。
-日本本社と現地のギャップはよく聞きます-
日本へ正確な情報が伝わりづらいことが、原因の一つと思います。
ADK中国では日本本社へできるだけ正確な情報が伝わるように、まず私が可能な限り事実に向き合うように心がけています。社員からネガティブな事実を報告されても、まず私が正面から受け止める。
むしろ社員たちには、「とにかく事実を報告してくれ」と繰り返し伝えています。悪い情報こそとにかく迅速かつ正確に、事実を報告してくれと。事実さえ把握できれば、なんとかなります。助けます。なんとかします。それが責任者の仕事ですから。
【制度は信頼関係を明文化するためのもの】
-各種制度も整備されました-
信頼関係を制度として維持するために、必要な整備を進めました。
人事評価制度、賃金制度、教育制度、ガバナンスなどを整備しました。
これらはそもそも、組織で信頼関係を維持するためのものだと思います。
どのような結果を残せば、どのような報酬が得られるのか。職位はどのように決められるのか。どのような教育機会が与えられるのか、自己判断でやって良いことはどこまでなのか、ルールに違反したらどのような処罰を受けるのか。これらが責任者の気分や思いつき、ましてや好き嫌いで決められるのではなく、全社員にフェアに適用されるものだということを明文化するのです。
また、オフィス環境も整備しました。社員一人ひとりが能力発揮できると同時に、チームでも力を発揮しやすい環境を目指して整備しました。例えば、部署の壁にとらわれず、交流しやすいスペースを設けました。明るめの配色でアイデアも湧きやすいと好評です。
【苦しい時こそ会社の方針を明確に】
-コロナ禍でのマネジメントはー
コロナ禍のような苦しい環境にこそ、会社の社員に対する姿勢、会社から伝えるメッセージが大切になります。
私達は、会社が把握したコロナ関連の情報をもとに毎週方針を決め、社員へのメッセージとして告知していました。
メッセージは、ADKの仲間である社員とその家族に対する健康の配慮を重視して発信し、出勤体制なども最大限配慮しました。
その姿勢は社員達に浸透していたようで、武漢において感染が広がった時、現地社員に対して全社員から多数の応援が発せられました。
全社員のグループチャットには、武漢社員への応援メッセージが次々と届けられ、さらに自宅待機中に視聴するためのおすすめ動画のリンクなど多数上がりました。「自宅でできるヨガ紹介動画」のような、仕事と関係ないものもありましたよ。仲間への自然な思いやりが溢れていて良かったと思います。
まもなく、武漢を応援する応援動画「我们加油(私達は応援しています)」や「等春来(春を待つ)」なども社内有志により自主制作されました。数秒~数分ですが良い内容で、私も元気づけられました。
【コロナに打ち克つ武漢社員たち】
-武漢の皆さんはその思いに応えてくれました-
みんなの応援に応えるかのように、武漢社員は力強く頑張ってくれました。
武漢のオフィスへマスクや物資を送る際、「同梱して送って欲しい物は無いか、他都市のオフィスからサポートして欲しいことは無いか」と心配して連絡をすると、こんな返信が返ってきました。
「自分たちは大丈夫です。
仕事の調整もできています。毎日9時からオンライン会議をしています。本日もオンライン会議でクライアントと打ち合わせをしました。封鎖されていない他都市での撮影指示を完了済みです。」
正直、凄いと思いました。コロナ禍での都市封鎖という事態の中、被害者意識も無く、妥協せず、諦めない。やるべきことをやるために様々な工夫をして、実行している。本当に誇らしい社員たちだと。
武漢人はそもそも「責任感が強く、負けるのが嫌い、第一線に立つ」という気質もあるらしいのですが、これまで築いた信頼関係に報いようとしているのだと感じて、嬉しくなりました。
そんな彼らの努力は報われました。コロナ禍の中で行われた武漢での日系大手企業クライアントでの広告コンペでは、ライバルの大手広告代理店複数社を抑えてADK中国を選んでもらえました。広告の内容はとても力強く勇気づけられるもので、消費者の反応も非常に良く、クライアントからも高い評価を頂けたそうです。
【人として向き合う】
-他の日系企業や駐在員にアドバイスを-
「中国人社員一人ひとりに対して人として向き合うこと」が大事だと思います。
人として向き合おうと思うと、まず自分が「人としての態度」を決めなければなりません。
私は、トップの考えを社員に伝えるためには、トップ自身が常に社員に判りやすくあるべきと考えています。
普段は考えを隠しておいて、自分が伝えたい時だけ判ってくれと言うのは、トップのわがままです。社員が判ってくれるわけはありません。
だから、普段からいろんなことに対する考え方を率直に、わかりやすい言葉で伝えています。仕事以外にも、生活習慣や、文化などについて、どのような考えを持っているのかも伝えてます。
そうすると、社員たちも自分の考えを伝えてくれるようになります。お互いの考えを交わし合うと、お互いに気づきが生まれます。今でも社員たちとの対話で、新しい気づきを得ることは良くあります。中国で仕事をしているのですから、中国人である彼らから気づきを得られるのは、何より貴重な財産です。
【喜怒哀楽も素直に表す】
また、喜怒哀楽も素直に表すべきだと思います。
良い仕事が出来たら一緒に喜ぶ、楽しいことがあれば率先してはしゃぐ、してはいけないことには叱る、良いことには褒める。日本人の感覚では「大げさだ」と思うぐらいが良いです。
すると、社員は安心して私と接してくれるようになります。率直な報告をしてくれます。忖度や隠し事はしません。
このような日々が続けば、社員は安心して働けます。最近では「心理的安全性※」というんですよね。社員が能力発揮しやすい職場環境ができるようになります。
実際、心理的安全性を感じられない環境下では良い仕事はできないと思います。いつ怒られるか判らない、常時監視されている、上司の顔色を見ながら仕事をする、そんな職場では、良い成果を生み出すことは難しいのではないでしょうか。
※心理的安全性 「社員が不安や恐怖を感じる事無く、安心して発言や行動ができる」ことを指す。Google社が「大成功するチームの要因」として発表し広まったもの。
【転職した社員が戻りたくなる会社に】
会社の制度も、一人ひとりのことを考えたフェアでチャレンジングなものが必要です。
社員にとって魅力がある制度という意味です。社員の管理強化をするためのものではありません。ADK中国の場合であれば、公正な評価制度、向上心に応える教育制度などです。それらがあれば、一度退職した社員も戻ってきてくれます。
実際、ADK中国でも、同業他社に転職したものの戻ってきてくれた社員も何人かいます。他社で経験を積み、成長して戻ってくれた訳です。ありがたいですよね。
これからの中国は、転職した社員が戻ってくることを前提とした人材育成体制を考えてみるのもよいかもしれません。そのためには、会社は“成長できる場”としての魅力も高め続けなければなりませんし。
ADK中国も全てできているわけでは有りません。
それでも、全社員で協力し合いながら、諦めずに取り組んでいきます。応援してください。
-貴重なお話、ありがとうございました-
【フェアで一貫した姿勢が社員を惹きつける】
西塚董事長のインタビュー掲載は、二度目の依頼で実現しました。
一度目の依頼は、西塚董事長が赴任して一年経たない頃。全社員への一対一面談やフェアな制度構築を弊社HPで紹介したいと依頼したのですが、「一年後に明確な成果が出て、この取り組みが正しかったと確認できてからにしましょう」と言われました。
その後一年間の取り組みで成果が出ていたことから、今回二度目の依頼をしたところ、「アフターコロナで戦う他企業の参考になるならば」と快諾して頂きました。
このようなフェアで一貫した姿勢も、社員たちを惹きつけ、強固な信頼関係構築に反映されているのではないかと思います。
今後も、コロナ禍のような想定外の事態が発生する可能性はあります。
中国人社員達と信頼関係を構築すること、フェアな制度を構築すること、必要ならば日本本社と妥協なく交渉することなどの取り組みで、より強い組織として備えていただければ幸いです。
取材協力:
ADK集団中国 http://www.adk-cn.com/
聞き手:上海埃和希企业管理咨询有限公司 河野隆
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