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中国リアルタイムレポートREALTIME REPORT

「日本人は知らない中国セレブ消費」の著者に訊く「中国人観光客は『引き算のコト消費』で」

来日中国人観光客は「引き算のコト消費」で

 訪日中国人観光客は、既に変化している。

 「爆買い」「ゴールデンルート」は、一部の団体旅行客だけである。

 

 消費の中心になりつつあるのは、個人で旅行手配をし、地方都市に行き、田舎暮らしや伝統工芸などを体験する30~40代の中国人である。

 彼らは日本人のマナーを理解し適応しているため、目立たない。だから話題にはなりにくいが、実は消費単価は団体旅行客よりも高い。「爆買い」よりも高いのである。

 そして今後、年令とともに社会的地位も高まり、所得が増えることも期待されるため、これからの消費の担い手でもある。

 

 そんな彼らに10年前から日本の地方都市や伝統文化を発信し続けているのが株式会社行楽ジャパンの袁(えん)社長である。

 北海道や鹿児島におけるインバウンド促進の貢献度が高いことから、北海道VJ大使と薩摩大使にも任命されている。近著に「日本人は知らない中国セレブ消費(日本経済新聞出版社)」があり、訪日中国人観光客の動向に精通している。

 その袁社長に「これからの訪日中国人観光客には、どのように満足してもらうのか」を伺った。(聞き手は弊社総経理の河野)。

コト消費が人気。特に地方都市。

-「体験」つまり「コト消費」を目的に来日する中国人観光客が増えています。どのような体験が好まれているのでしょうか-

 

 まず多くの中国人にとって、日本の自然の中での体験は人気があります。

 「星空が美しい」ことで有名な長野県阿智村で星空を見る、沖縄北部の透明な海でシュノーケリングをする、北海道で雪の上で雪合戦やソリ遊びなどは、以前から人気があります。

 「星空」「透明な海」「雪」、それだけを楽しむ。豪華なホテルや化粧品などの買い物が無くても良い。「引き算」の体験です。

 これらの体験は中国には無い上、期待はずれにはならないため、今後も継続して人気があると思います。

 

 その中から、さらに「深く」日本を体験したいという方々も増えています。

 そのような方々向けに弊社の企画したものでは、高野山での修行体験ツアーが好評でした。宿坊に止まり、早朝からのおつとめを果たします。写経をし、瞑想をし、質素な食事をいただくものです。

 

 北海道の民宿に泊まり込む農業体験も好評でしたよ。早朝から農作業をしていただくのですが、雄大な自然の中で、美しい朝日や夕日、冷たく美味しい風や空気など多くのことが初体験で、非常に喜んでいただけました。

 

 そもそも日本の農村部は、田園風景の美しさもあり、中国人を惹きつけます。

 SONYさんとのコラボ企画で、徳島・祖谷(いや)の「桃源郷祖谷の山里」という宿泊施設をご紹介したところ、大好評でした。そこはリノベーションした茅葺きの古民家に泊まれる宿で、食事は囲炉裏端です。一方、冷暖房やお風呂、IHのキッチンなど快適さは完備しています。

 つまり、快適に日本の山村暮らしを満喫できるようになっています。このような快適なインフラを整備した中で、田舎暮らしをする。このような体験にも価値を感じていただけています。

 都市部でもコト消費が人気です。気軽に体験できますからね。

 東京では、清澄白河のカフェ巡り、表参道の有名美容室で髪をセットしてもらう、着物で日本橋散策などを企画しました。

 参加した皆様からは、とても楽しい時間を過ごせたと喜んで頂けました。

 これは、「都市版の引き算」とも言えるでしょう。

 ちなみに、日本政府観光局(JNTO)の調査データでは、「モノ消費」、つまり買い物に消費する金額は、都市部よりも地方都市を訪問する中国人観光客の方が高いそうです。「都市部で爆買い」のイメージがあるので意外ですよね。

 これは、「食品」と「趣味・嗜好品」の分野で特に差が大きいようなのですが、おそらく「その土地でしか食べられないもの」「匠が作った地方の伝統工芸品」のようなものに消費されているのではないかと思います。

 当社が発行する「行楽」という中国人に日本の都市や文化を紹介する雑誌でも、そのような地方の名産品や匠の記事は、非常に好反応です。

中国では日本の疑似体験をしている

-そのような「コト消費」を好む彼らの特徴を教えて下さい-

 

 1980年以降の経済成長する時代に生まれ育った人たちは「80後(パーリンホウ)」と呼ばれ、それ以前の世代の消費行動と明確に区分されます。

 来日観光客として見ると、それ以前の世代のように東京や大阪のような単なる大都市に憧れを持ちません。理由は、「自分が仕事をして生活をしている上海や北京などのほうが、高層ビルや高級ホテルも多く、生活も便利で快適だ」と感じているからです。

 以前の来日目的の一つになっていた大人気の日本製化粧品は、中国にいながら淘宝網(タオバオ)などのネット販売で購入できます。

 定番になりつつあるユニクロや無印良品の製品も、中国の多くの都市で自分の生活圏内に何店舗もあるので、店頭で商品を手にとって吟味した上で購入します。

 日本で購入すると多少安くは買えますが、「日本に来てまで安く買う」ことに価値は感じません。

 では何に価値を感じるか。中国に無いもの、中国ではできない体験に価値を感じます。それが高野山だったり農村部だったりするわけです。

九州ラーメンをスープで当てられる中国人

 彼らは中国にいながらも日本を体験し、知見を得ています。

 ここ数年、上海では7月になると、あちこちで浴衣イベントが開かれます。和食レストランやショッピングモールのようにスポンサーがいる企画だけでなく、日本好きの中国人が友人の日本人達と合同で開催しているものもあります。

 浴衣レンタルをしてくれる会社も盛況のようですが、弊社主催のイベントでは20~30人の中国人女性が「マイ浴衣」での参加でした。

 私達でも驚くようなことがありましたよ。

 2017年の秋に上海の森ビルで九州ラーメンのイベントを開催した時のことです。45人ぐらいの小さなイベントで九州ラーメンの食べ比べ企画をやりました。九州7県のラーメンを食べ比べてどこの県のものか当てるクイズなのですが、「難しすぎるだろう」と正解者用の賞品を7つしか用意していませんでした。

 ところが、20名の方が全問正解してしまい、賞品が不足するという事態になってしまいました。これには、私達も驚きたいへん困ってしまいましたね(笑)。

 

 確かに、現在の上海では日系有名ラーメン店が多数あります。チェーン店である味千ラーメンを除いても50店を超えるという調査結果もあるようです。食べ比べができるようになっていることもあると思いますが、それよりも参加した中国人が九州を旅したことのある方が多いことが理由だと思います。

 全問正解した20名の方々は、単なる観光ではなく、気に入って再訪し、各地で食べ歩きをしていたのでは無いでしょうか。

まずはミスマッチを防ぐ

-日本にも詳しい中国人に満足した体験をしてもらうためには-

 

 中国人が望むことと、日本人が「おもてなし」と思いこんで提供しているサービスとのミスマッチを減らすことだと思います。

 私の友人が北陸の温泉旅館に行った時のエピソードです。子供と二人で一泊10万円もする高級旅館に、ものすごく期待して行ったそうです。

 15時頃に到着した時、子供が「お腹が減った」と騒ぎ出したそうです。そこで旅館の女将に、「何か軽く食べるものを」を頼んだところ、おにぎりが出てきました。

 これに友人は、非常に失望したと語っていました。期待が大きかっただけに、本当にがっかりしたとのことです。

 宿の方の気持ちと気配りは判ります。あと二時間ほどで豪華な夕食ですから、あまり重たい料理は出したくない。北陸は米どころで、ちょうど新米のシーズン。美味しいお米をおにぎりにすれば、きっとお子様が笑顔で頬張ってくれると考えたのではないかと思います。

 日本人のお子様であれば、きっと喜んでくれたと思います。

 しかし、中国人にとっては違うんです。お米だけを握ったおにぎりは、非常に貧しいイメージです。難しいとは思うのですが、10万円の宿にはもっと高級なイメージのものを出してもらいたかったのです。

 

 ホテルの部屋のアップグレードでも同様なことがあります。

 中国人は、角部屋や廊下の突き当りにある部屋を嫌います。

 中国人は、ホテルは大勢の人が入れ代わり立ち代わりするので、幽霊も集まっていると考えます。幽霊が廊下を歩いてきて、突き当りになったら、もう行き場が無くなって部屋に入ってくる。それが突き当りの角部屋だ・・・・という理由です。

 そんな理由で、と思うかもしれませんが、気にする中国人は多いですよ。80後でも中国人セレブでも「角部屋だけは嫌」と言う人はいます。

 だから、ホテル側が気を利かせて、「ちょっと広めの角部屋にアップグレード」というのは、喜んでもらえるとは限らないのです。

 

 また、もっと簡単なことには、飲食店で最初に出される「氷水」があります。

 日本の飲食店で最初に出される水は、ほとんどが「氷水」ですよね。氷が入って無くても、冷えているのが一般的で、常温では出されることは無いと思います。

 中国では違います。中国人は、冷たい水を好みません。

 だから、無条件で氷水が出てきて、その氷がようやく解けてきたと思ったら、気を利かせてさらに氷水を足しに来る日本のサービスを有り難いとは思わないのです。

 

 これら全ては、単に知識不足で生じる残念なミスマッチです。

 もちろん、ホテルやレストランのスタッフの方々が、事前に中国人に対する知識を持って頂ければ良いのですが、中国以外にも多くの国からのインバウンド対応をするホテルでは難しいのかもしれません。

 それならば、お客様である中国人の様子を見て、もしくは直接お伺いして、希望することを提供できるようにすればよいのではないでしょうか。カタコトの英語でも、十分に確認できる内容だと思います。

 中国人に接したスタッフが、「こうすることが日本式のおもてなし」と機械的に実行してしまうことが、ミスマッチを生んでいるように思います。

中国人個人に伝わるアピールを

-そのような中国人に来てもらうようにするためには、どうしたらよいでしょうか-

 

 観光庁の報告書によりますと、6割の中国人が個別手配をしているようです。つまり、個人が日本各地の情報を調べ、行きたい場所を選び、予約しているということです。

 そうなると、来てもらいたい地域や観光地、宿泊施設や特産品の情報を、「中国人個人」に対して魅力的に伝えなければなりません。 中国の旅行代理店などでは無いのです。実際、中国人消費者は「お金を払えば良いことを書いてくれるような媒体、つまり広告代理店のHP」などは信用しません。

 また、この「個別手配」の中国人は、旅行滞在中の平均消費額が23.4万円です。「団体ツアー」の13.8万円と比較すると約1.7倍になります。 時間をかけてアピールの仕方を考える価値は、十分にあると思いますよ。

顔値が高いものを探す

-何を伝えると効果的でしょうか-

 

 中国で最近定着したネット用語に「顔値(イェンジー)」というものがあります。

 もともとは顔の見た目を示したもので「彼女は顔値が高い(=彼女は美人だ)」と使われていました。

 それが徐々に見映え全般に使われるようになり、日本で言う「インスタ映え」と同じような意味になっています。

 この顔値は、SNSで写真をアップすることが日常になっている中国人にとって極めて重要です。

 地方都市に来てくれるような日本通の中国人も、この点については同じです。

 そこで、「顔値が高いものは何か」、つまり、「インスタ映えするものは何か」で自分達のサービス全てを探してみて下さい。 赤い鳥居が連なる「伏見稲荷」、海の中に建っている「厳島神社」、桜の花筏が美しい「弘前公園」のように日本人にとっても魅力あるものは、もちろん良いでしょう。

 さらに、日本人視点から離れて、中国人視点も考えてみて下さい。

 日本人にとって当たり前のものでも構いません。

 料理や容器に趣向を凝らした「駅弁」、ライブ感が伝わる「刺身の活造り」、霜降りが美しい「しゃぶしゃぶ」、雪景色の中の「露天風呂」、収穫前の稲穂が美しい「田園風景」などは、十分に「顔値が高い」ものになります。

  さきほどの高級温泉旅館のおにぎりについても、盛り付けや演出などを工夫して、「顔値が高い」ような提供をしてくれたら、反応が違ったかもしれませんよね。おにぎりとはそういうものではないというご意見もあるとは思いますが(笑)。

地方都市こそ魅力的

-最後に、日本企業や地方自治体に向けてアドバイスをお願いします-

 

 日本政府観光局(JNTO)のデータでは、地方都市に訪れた中国人の8割がリピーターです。内、15%は4回以上の訪問です。

 また、8割は30~40代、つまり働き盛りのため今後さらに豊かになり、他頻度で来日し、多くの消費をしてくれる可能性があります。

 冒頭で申し上げたように、上海などの大都市で働いている彼らには、日本の星空、海、雪、田園風景などは十分魅力的です。有名な場所でなくとも良いので、そのような魅力的な場所を持つ 地方都市の方々は、自分達の地域の魅力を丁寧に見直し、適切に発信することです。

 鳥取のように「名探偵コナン」の出身地として、中国人に知名度が高い県もあります。 いろいろな角度から見直してみることで、今まで気づかなかった自分達の良さを見つけ出して下さい。

 一例として、株式会社行楽で九州各県から中国人観光客誘致のコンサルティング依頼を受けた時の話をご紹介しましょう。

 日本人向けであれば、「福岡の屋台ラーメンやモツ鍋」「長崎の異国情調ある街並み」ということが訴求ポイントになると思います。

 しかし、中国人にとっては違います。ラーメンも鍋も、異国情緒ある街並みも訴求ポイントにはなりません。中国にはたくさんあるのです。

 では中国に無くて九州にあるものは何か。

 温泉です。

 

 九州の方からは「そんな日本中にあるものではなく、九州にしか無いもので勝負したい」と言われそうですが、それは発信者側の発想です。

 情報は受け取る側、つまり中国人側の視点で考えなければなりません。

 

 中国でも少しずつ温泉施設はできつつありますが、日本のように清潔で、景色や料理、接客を満喫し、心身ともにくつろげるようなレベルには到達していません。

 「本物の温泉ならば日本」というイメージを持つ中国人は多いはずです。

 そこで、「温泉ならば九州」というイメージをもってもらうのです。

 「上海からたったの1時間半で本物の温泉に入れる」という訴求もできます。 温泉から新緑や紅葉が見られるならば、さらに効果的でしょう。

  まさに「顔値が高い」となるので、写真を多用したプロモーションを進められます。温泉の効能や土地の歴史を文字で訴求するよりも、はるかに効果的です。

 

 このように考えていただくことは、中国以外の外国人観光客誘致につながると思います。

 

 世界各国の観光客の誘致を進めることで、日本人観光客が少ない時期に外国人観光客に来てもらえるようになること、そんな状況をぜひ実現して下さい。

 

 

-貴重なお話をお聞かせ頂き、ありがとうございました。-

インタビューを終えて

 

 弊社の日本におけるクライアントでも、来日中国人観光客への対応をしています。

 高級ホテルを運営しているクライアントでは、日本人スタッフがカタコトの中国語でご要望を伺い、対応しています。

 レストランの朝食時では、冷水以外に常温の水や白湯があることをお伝えし、ご希望を伺います。中国人女性は冷水以外を希望されることが多く、「日本で対応してくれるとは思わなかった」と好評です。

 彼らは日本での雰囲気を味わうために来日しているので、できるだけ日本のマナーや習慣に合わせようとします。些細なストレスは我慢してしまう方が多いようです。

 そのような方々に対して、レストランスタッフがそのストレスを軽減するお手伝いをします。ご要望を伺い、笑顔で常温の水や白湯を提供することで非常に喜んで頂いてます。

 

 百貨店のクライアントでは、中国人スタッフにヒアリングスキルを高めるトレーニングをしました。来日中国人のお客様との応対時に、お仕事やライフスタイル、家族構成、お土産を渡される方との関係などもヒアリングした上で、商品をお勧めするようにしたのです。「商品説明スキル」より「ヒアリングスキル」を優先したのです。

 すると、売上と顧客満足度の両方が上がりました。二度目以降の利用時にはスタッフを指名していただくお客様も増えたため、「嬉しく、やりがいがある」と従業員満足度も上がりました。

 

 日本人と同様に、中国人のお客様も、多様なニーズを持たれるようになっています。

 日本人しか関心を持たなかったであろうことや、日本人にとってもマイナーなことに強いこだわりを持ち、時間とお金を消費します。

 これからの中国人観光客に満足して頂くためには、「先入観で対応せず、ご希望を伺い、スマートに対応できるようにしておく」ことが重要です。ごくあたり前のことを丁寧にやるということです。

 そのような対応をし続ける組織が作れれば、中国人だけでなく、日本人や欧米などの外国人客の満足度も上げることができるようになるはずです。

取材協力:株式会社行楽 代表取締役社長、「行楽」誌発行人 袁 静 様

聞き手:上海埃和希企业管理咨询有限公司 董事長 河野隆 

 株式会社 行楽 http://kouraku-japan.jp/

 日系BPコンサルティング「知られざる中国インバウンドの主役」にも連載中。

 「日本人は知らない中国セレブ消費(日本経済新聞出版社)」

 

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